二枚の結婚写真

01


 来月、祖母の千恵子が施設に入る事になった。
 大正・昭和・平成と生きた祖母は、認知症を患い介助が必要となっていた。しかし体の方は至極丈夫であった。祖母は、九十年間自分はB型だと思って生きていたのだが、施設に入るため受けた血液型検査で、AB型であることが判明した。
 私達親族は、その事実に驚愕して同時に感心をした。つまり祖母は、この年まで輸血を必要とする大病をしてこなかったのだ。
 今日叔父と母は、祖母の自宅の整理のため駆り出された。
 孫の自分も何となくその場に立ち会う事になったのだが、何をしてよいのか、荷物の山に途方に暮れ立ち尽くしているところだ。
 祖母は、何でも捨てずに取っておく人だったので、自宅の一室が荷物の倉庫になっている。その量たるや半端がない。戦時中を生きた人達は、こんなものだろう。認知症を患ってからは、荷物を片づけるのを不安がるようになったので、今日までそのままになってしまった。
 部屋にある荷物は、大型の古い家具、持ち主が分からないガラクタ。そして包装紙、その紐、容器、綺麗なお菓子の箱、紙袋、これは女子の好きな物だ。可愛い物は取っておきたくなるのは分からないでもない。しかし一部屋分となると……
 私は、この整理で何かアンティーク的な掘り出し物や、素敵なネックレスなど出て来たら頂こうと思っていたのだが、考えが甘かったようだ。
「あなたも見てないで手伝いなさいよ!」
 早速、お叱りが飛ぶ。母は化粧された箱を私の前に押してきた。
「はーい」
 私は箱の蓋を開け、中を覗き込んだ。中にはボロボロの表紙のアルバムが数冊ある。そのうちの一冊を開いてみた。ねずみ色に変色した紙に、同じく茶色に変色した白黒の写真が何枚もところ狭しと貼られている。しかし私は、誰が写っているのか皆目見当がつかない。どうやらこの箱は私が整理出来る品ではなさそうだ。
「ねぇお母さん、これ誰?」
 忙しく動き回る母を捕まえて、質問を投げかける。
「あら、懐かしい。これはねぇ……いとこの……」
 説明を受けるがさっぱり分からない。私の実家は、少し前まで材木屋の商売をしていたので、とても大所帯だった。名前を聞いても知らない人も沢山写っている。さらにアルバムのページをめくると大きな写真が一面に貼られていた。写真には、綺麗な黒留袖を来た女性と、洋装姿の男性が写っていた。これは結婚記念の写真だ。
「ん? これは、もしかしてばーちゃんかな。若いな」
 写真に写る女性は、祖母と同じすっとした一重の目をしている。母と叔父の口の形、これは間違いなく祖母だ。
 男性の方は、たぶん祖父だろう。たぶんというのは、祖父は、私が生まれる前に他界しており、写真もあまり見たことがない。そのため若い頃の顔がよく分からないのだ。しかしこの顔は、大叔父達にどことなく似ている。次のページを開いてみた。やはりこちらも結婚の記念の写真だ。しかしなんだろう。この写真にはおかしな違和感がある。
 二枚は同じ構図の写真だ。花嫁が椅子に座り、花婿がその後ろに立っている。後ろに映る床の間と掛け軸も同じだ。
 何故同じ写真を二枚も撮っているのだろうか? 普通ならポーズを変えて撮ったりするものだが、それとも撮った時、何か失敗をしたのだろうか?
「ねぇ、お母さん何で同じ写真が二枚あるの?」
 私は、ほかのアルバムに夢中になっていた母に写真を見せた。
「あ、これは……」
 母は自分の両親の結婚写真を見て、何故か口ごもった。

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